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日本の経済制度とその基礎になっている多数の法律が、今の経済の実態にそぐわないものになっている事実は、多くの識者が指摘するとおりだが、全面的に見直し、改革しようとすれば、即座に官僚側からのすさまじい反対、抵抗に直面し、全面的に排除するのは決して容易な話ではない。 すべての法律を改正し、制定し、廃止する唯一の権限を握っている国会内で、制度改革に反対する官僚の抵抗を側面から支援する、いわゆる「族議員」を国会から一掃するために、長年続いた中選挙区制を原則とする選挙制度の改革を実現し、さらに都市と農村との間に厳存するいわゆる「一票の格差」を全面的に解消しなければ、官僚の行政指導の権限を大幅に縮小、次いで解消することなど、単なる空想に終わってしまう。
今の経済界が直面している景気回復策にしても、もともと官僚という集団は「好況が嫌いで不況が大好き」な性格の持ち主である。 自由経済体制をとるといっても、日本は長年貧しい発展途上にある国として、明治維新からわずか百二十年、とくに第二次大戦に敗北してから半世紀足らずという短期間に、世界の誰もが驚くほどの急速な成長と発展に成功した国だけに、その過程で蓄積してきた経験、さらにそれにもとづいてつくられてきた法律、それに従う制度の多くが、これからの新しい世界の環境のなかでは全く有効性を失ったとの認識に立って、改革を決断しなければ日本の将来はない。
にもかかわらず、現実に古くからの制度の運営に強大な権限を与えられてきた官僚たちは、あくまでも自らの権限を維持しようと必死に抵抗を続けようとしている。 そのシンボルともいうべき発想が、「バブル性悪」論なのである。
同時に、もうひとつの重要なポイントを指摘しておかなければならない。 経済界を含めてこうした「バブル性悪」論が、どうして容易に克服できないのかという点である。
その理由は、日本国民の意識構造のなかにある。 というのは、日本国民のほぼ二五パーセント、約三千万人に達する人びとが「自由経済体制」に敵対する考え方の持ち主で、彼らは自分自身を「自由経済の犠牲者」と位置づけている。
したがって「バブル性悪」論に彼らは快哉を叫び、「バブル」の根絶を最も望ましい経済政策と考える。 万一、「バブル」を根絶する政策を導入すれば、その行き着く果てが旧ソ連などですでに崩壊し、かつ国民生活がどれほど大きい害悪をもたらしたか、完全に証明済みの計画経済体制しかないという事実にすら目をつぶろうとしている。
それほど、彼らの「反体制」ぶりは強いと判断して誤りはない。 その証拠に、平成五年七月の総選挙で、彼らは急速に現実政党に移行しようとした社会党を見捨て、共産党に支持を移したといえる。

ということは、これからの日本の政治の行方を判断するうえで、決して無視できない側面が厳存している。 よくいわれるように、現行の中選挙区制度を単純小選挙区制に移行させても、日本の政治体制が一挙に保守系の二大政党制に変化することはない。
やはり、有権者の二五パーセントを占める人びとが反体制であり、彼らの主張を政治に反映できるチャンネルを残しておかないと、彼らの心中にはきわめて強い不満が生き残ってしまい、経済情勢が好況から一旦不況に転換した瞬間、即座に体制批判の声を盛り上げる強い力となって、政治情勢を混乱させる恐れがある。 今度の不況で一挙に表面化「バブル性悪」論も、その流れのなかでそれなりの影響力を発揮したといえるからである。
この情勢は、もちろん永続するものではあり得ない。 「反体制派」に属する人びとの平均年齢はすでに四十歳代後半で、もっと重要なことは彼らには後継者が全くいない。
「反体制派」のなかで最も過激なグループである「全学連」各派をとってみると、その事実がきわめてはっきり浮き彫りになる。 「全学連」を名乗っても、彼らのなかに現役の学生はまず一人もいない。
たとえいたとすれば、文字どおり「珍客」なのである。 ときどき全学連がやるデモの参加者は全員、派によって異なる色つきのヘルメットをかぶり、タオルで覆面している。
その理由は、頭の白髪と顔のしわをかくすためであり、警察が彼らの何人かを逮捕してヘルメットをとり、覆面のタオルをはぎとれば、なかから出てくるのは若々しい二十歳代の青年ではなく、四十歳代の中年の「おじん」なのである。 この後継者がいない現実を、「反体制派」が知らないわけはない。

彼らの次の世代、とくに昭和三十年代に生まれた世代は、生まれた瞬間からテレビ漬けの生活しか知らない。 まして「飢え」を経験したことなど一度もない、豊かな生活しか知らない世代であり、自由経済体制のなかで生まれ、成長し、成人してきた世代に属するから、自由経済に反対する発想など、はじめから全く持ち合わせていない。
したがって今こそ二五パーセントを占めるとはいえ、日本の「反体制派」は将来先細りになるのは当然、彼らもそのことを十分承知しており、将来一段と自らの支持者が増えて日本の有権者の多数を制し得る状況になり得る見通しなど、はじめから全く持ち合わせていない。 自分たちと同じ発想の持ち主が減少の一途をたどると承知しているから、彼らの影響力も今がピークであって、先細りの運命にあると自覚している。
ということは、彼らの政治的な代弁者を国会に送り出すための手続き、すなわち選挙制度をとっても、今こそ小選挙区比例代表並立制をよしとしても、近い将来さらに改革して、いずれは単純小選挙区制に移行する見通しが定着しよう。 ここで大切な点は、制度を一切改革の対象にしないのではなく、情勢の変化に応じて改革するという発想の定着である。
このすべての制度を、政治も経済も流動化して当然という考え方を有権者の間に定着させておくなら、これからの日本ではどんな制度であっても時とともに見直し、時代の要請に一致した機能を発揮できないと考えられれば、即座に改革の対象にして当然ということになって、日本の国内にあるあらゆる制度は絶えず見直し、したがって改革の対象にできる。 憲法もその例外ではない。
そもそも憲法も人間のつくった制度の基礎を規定するための法律にすぎない。 したがって時代とともにその内容に不適当な部分が発生すれば、その部分を改革の対象にしてこそ、憲法の権威が一段と高まり、国民が重要視する制度の基本を規定した法律という評価が定着しよう。
その憲法を絶対視し、その改正など絶対に認められないという硬直した発想に立つなら、逆に憲法の威信を失墜させる危険が大きくなる。 かつて明治憲法がそうだった。
第二次大戦の敗北の原因のひとつは、国家総力戦の時代に入ったのに、そのために必要な政治権力のあり方を規定していない明治憲法を、日本の指導者の誰一人として改正しなければならないと主張しなかった点にある。 時代遅れとなった明治憲法の規定を守ろうとすればするほど、日本は貧しい国力を無駄使いし、戦力の統一的な発揮ができない情勢に追い込まれて、ついには敗戦を迎え、無条件降伏を余儀なくされたのである。
この教訓を十分学びとらなければならない。

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